保育園「待機児童」の正確な定義とは?厚生労働省の定義を読み解く

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この記事では、厚生労働省が毎年実施している「保育所入所待機児童数調査」における、保育園の「待機児童」という用語の国の定義についてご紹介します。育休や求職といった重要そうな人々を除外するという定義になっていました。

このブログではこれまで、東京都、横浜市、千葉県、埼玉県といった首都圏地域の待機児童数を自治体が公表した数値をもとにしたランキング形式でご紹介してきました。しかし、肝心の「待機児童」の定義が都市によって異なっていることに気づきました。

地域によっては育休中の人を待機児童に含めたり、含めなかったりして、この違いだけで軽く数百人の変動がでてしまいます。いちど定義に立ち返ってみることにします。

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待機児童の管轄は「厚生労働省」

はじめに、待機児童など子育てに関する問題を担当しているのは厚生労働省です。教育を担当する文部科学省ではありません。厚生労働省のうち、雇用均等・児童家庭局という部署が待機児童に関わっているようです。

この厚生労働省、雇用均等・児童家庭局が年に2回(4月と10月)、保育所入所待機児童数調査なるものを行います。そのため、各都道府県が自分たちの地域の待機児童数を集計します。

その際に使われる文書に保育園の待機児童が明確に定義されています。

厚生労働省が定める「保育園待機児童」の定義

自治体・中央省庁のウェブサイトの常として、文書が探しづらい、見つかっても古い、別紙しか見つからない、などの困難が付きまといます。

私が見つけることができたのは2010年(平成22年)3月25日に発行された「保育所入所待機児童数調査について」という文書です。厚生労働省雇用均等・児童家庭局保育課長名義で、各都道府県・指定都市・中核都市の児童福祉主管部(局)長あてに発信されています。

長くなるけれど、全文を引用します。

(定義)保育所入所待機児童とは 調査日時点において、入所申込が提出されており、入所要件に該当しているが、入 所していないものを把握すること。

(注1)保護者が求職中の場合については、一般に、児童福祉法施行令(昭和23 年政令第74号)第27条に該当するものと考えられるところであるが、求職活動も様々な形態が考えられるので、求職活動の状況把握に努め適切に対応すること。

(注2)広域入所の希望があるが、入所できない場合には、入所申込者が居住する市町村の方で待機児童としてカウントすること。

(注3)付近に保育所がない等やむを得ない事由により、保育所以外の場で適切な保育を行うために実施している、

① 国庫補助事業による家庭的保育事業、特定保育で保育されている児童

② 地方公共団体における単独保育施策(いわゆる保育室・家庭的保育事 業に類するもの)において保育されている児童

③ 国又は地方公共団体よりその運営に要する費用について補助を受けて いる認定こども園のうち、幼稚園型又は地方裁量型の保育所機能部分で 保育されている児童(②の地方公共団体における単独保育施策分を除く。)

については、本調査の待機児童数には含めないこと。

(注4)いわゆる”入所保留”(一定期間入所待機のままの状態であるもの)の場合については、保護者の保育所への入所希望を確認した上で希望がない場合には、除外することができること。

(注5)保育所に現在入所しているが、第1希望の保育所でない等により転園希望が出ている場合には、本調査の待機児童数には含めないこと。

(注6)産休・育休明けの入所希望として事前に入所申込が出ているような、入所 予約(入所希望日が調査日よりも後のもの)の場合には、調査日時点におい ては、待機児童数には含めないこと。

(注7)他に入所可能な保育所がある(保育所における特定保育事業含む)にも関 わらず、特定の保育所を希望し、保護者の私的な理由により待機している場 合には待機児童数には含めないこと。

※ 他に入所可能な保育所とは、

(1) 開所時間が保護者の需要に応えている。(例えば、希望の保育所と開所 時間に差異がないなど)

(2) 立地条件が登園するのに無理がない。(例えば、通常の交通手段によ り、自宅から20~30分未満で登園が可能など)

読んだだけではピンとこない表現も多いため、自分の具体例などを交えつつ、国が定めた待機児童という用語を詳しく見ていきましょう。

待機児童の定義…無認可保育は含まれない

国の待機児童の定義(注3)の「保育所以外の場で保育」は多くの方が該当すると思います。「保育所には入れなかったけれど、他の場所に子どもを預けている場合、待機児童に数えない」というものです。みんながよく使う「保育園」という言葉にとらわれると混乱します。

例えば、家の近くの公立認可保育園に落選した方が…

  • ・駅前の無認可保育園に入れた
  • ・自治体が待機児童緊急対策で設置した保育室に入れた

…という場合は保育園に行けている、とみなされて待機児童になりません。より良い保育を目指して公立園への転園を希望し続けていようと、ひとまず保育されているではないか、という点でこの定義は妥当なものと思います。

地方公共団体における単独保育施策の例としては、杉並区保育室、横浜保育室、川崎市のおなかま保育室、など、待機児童数対策に貢献した施設が挙げられます。2016年の横浜市の場合、3000人近くが認可保育園に落選したものの、1000人近くがこの定義によって、待機児童扱いになっていません。その1000人は実際保育園に行けているわけです。

待機児童の定義…育休延長は含まれない

待機児童の定義のうち、産休・育休明けの入所希望に関する(注6)がとてもびっくりします。「育休明けの入所希望として、入所予約の場合は、待機児童に含めない」ということです。

少しわかりづらいので、自分の(妻の)例で考えてみました。

我が家の場合は夏に産まれた子どもを0歳保育に入れるべく、「4月15日に育休終了、復職」として4月1日から入所させました。幸いにして第一希望の園に入れたけれど、もし入所できなかった場合、育休を延長していたでしょう。そして「4月1日時点で育休中、かつ5月1日入所希望に応募中」となっていたはずです。

つまり「4月1日時点で育休明けに入所希望として事前に入所申込」していることとなり、国の定義では待機児童に入っていなかったことになります。
「復職したかったけれど保育園に入れなかったので育休を延長した。一刻も早く子どもを保育園に入れて復職したい」という人でも、待機児童としてはカウントされないことになります。全く腑に落ちません。

なお、2016年度4月時点の横浜市には、これに該当する方が420人いらっしゃいました。(待機児童数は7人)

待機児童の定義…求職中は(原則)含まれない

同時に突っ込みどころが大きいものが(注1)です。

出産にあたり、会社に産休・育休制度がなかったり、体調が悪くて仕事ができず退職したような人もいるでしょう。そういう人は子どもを保育園に預けて復職すべく、求職活動をすることでしょう。そのため「求職活動の状況把握に努め適切に対応すること」という表現でボカしているようです。

これは、自治体によって解釈が異なるようで、横浜市などでは明確に待機児童数から除外しています。横浜市では「主に自宅で求職活動されている方:ご自身等でお子さんをみながら、インターネットなどを利用し、在宅で職を探している方」は待機児童数から除外しています。(保留児童数には含まれる)

もし私が保育園に入っていない子どもを抱えて2016年に転職活動をする場合、子どもの面倒を見ながらインターネットの転職サイトに登録して、書類選考に挑み、面接が決まれば配偶者や親に子どもを預けて面接にでかけて…という求職活動をすると思います。そして、面接では子どもの世話についてはぼやかし、晴れて内定を勝ち取ったら青ざめながら保育園を探す…となるでしょう。
でも、この場合は待機児童としてはカウントされません。2016年度4月時点の横浜市には、これに該当する方が366人いらっしゃいました。(待機児童数は7人)

国の待機児童の定義まとめ…待機児童数は一切あてにならない

以上、定義を詳しく見てきたのだけれど、育休延長や、求職中といった保育を切に必要としているけれど、保育園には入れなかった人を除外する、という定義があることがわかりました。

当ブログでは待機児童数ランキングを数多く公開しています。ただ、こういった定義をされている以上、自治体や国が発表する「待機児童数」のデータは一切信用できない、と私は感じています。何人が保育園に応募して、何人が落選し、そのうち何名が育休中で…というデータを公開しないかぎり、その自治体がどういう考えで待機児童数を数えているかわからないのです。

横浜市は必要以上に待機児童数が少ない事をアピールしている気はするけれど、不都合なデータである育休・求職中といった数もちゃんと公開しています。東京都や埼玉県や千葉県は、ざっくりと最終的な待機児童数を公開するだけで、あまり実態がみえていません。現在の数でも問題だといっているので、実際の問題はもっと深刻なのでしょう。でもそれが表にでないような待機児童の定義になっているな、と感じます。

将来的にこの記事は追記していくかもしれません。