この記事では、東京都における2016年の保育園「隠れ激戦区」をワーストランキングの形式でご紹介します。待機児童の数ではなく、待機児童率(保育園入園児童数と待機児童数を比較した割合)にもとづいてランク付けしました。
東京都の保育園待機児童問題を、以前の記事に引き続き、掘り下げてみます。
2016年4月時点の東京都の待機児童数ワーストランキング上位は、待機児童数が多い順に、世田谷区、江戸川区、板橋区、渋谷区、足立区でした。
また、練馬区、八王子市、葛飾区、港区、新宿区、墨田区、文京区、豊島区などは、人口の割に、比較的待機児童の数が少ないです。
今回の記事では、東京の待機児童の「隠れ激戦区」をご紹介します。
待機児童激戦区の考え方…待機児童率
ランキングをお見せする前に、今回注目する「待機児童率」という数字の考え方をご紹介します。(大阪編で書いた内容と同じです)
待機児童率というのは、保育所定員に対する待機児童の数です。…といってもこれだけで分かる人は少ないと思うので、補足します。
A町の保育園の定員が100人だったとしましょう。そこに105人の応募がありました。当然5人はあぶれてしまいます。ものすごく単純に考えると、この5人がいわゆる「待機児童」です。
つまり、保育園に入れた100人の5%にあたる5人が待機児童になってしまったのです。この5%がA町の「待機児童率」です。
このA町の隣にあるB町は大きな都市で、保育園の定員は1000人です。今年は1010人の応募があったので、10人が待機児童になりました。待機児童率は10÷1000で、1%です。
待機児童数だけを比較すると、A町の待機児童は5人で、B町は10人です。
いっけんB町のほうが保育園事情がひどいようにみえるけれど、待機児童率を比べると、A町は5%で、B町は1%です。
B町は101人に1人しか待機児童がいないのに対し、A町は105人に5人も待機児童がいるので、じつはA町のほうがB町より保育園に入りづらいのです。
というわけで、この記事では、この「待機児童率」が大きな東京都内の自治体を「待機児童隠れ激戦区」として、ワーストランキングでご紹介いたします。
なお、東京都は「保育所定員」は公開しておらず、かわりに「保育サービス利用児童数」を公開しています。そのため、保育サービス利用者数と待機児童数を使って待機児童率を求めました。
保育サービス利用児童数は、定員以上に詰め込む地域や、定員割れしている地域では保育所定員とズレてしまうけれど、概ね同じ数だと思います。
東京都、待機児童率で比べる保育園激戦区
2016年4月の東京都全体の保育園入園者合計は、261,705人でした。
これに、待機児童が都全体で8,466人いたので、待機児童率は8,466÷261,705=3.2%でした。
これは、100人いると3人待機児童がいるくらいの割合です。
ちなみに大阪府平均は0.9%だったので、東京がいかに待機児童が多いか分かるでしょう。
ここからランキングをご紹介していきます。参考のために、待機児童率(%)とあわせて待機児童数を表記します。
東京都待機児童隠れ激戦区ワースト1位〜10位
こちらが待機児童率に基づいた、隠れ激戦区のランキングです。
1位:狛江市9.6% (待機児童数142人)*
2位:台東区8.1% (待機児童数240人)*
3位:世田谷区7.89% (待機児童数1198人)
4位:渋谷区7.86% (待機児童数315人)
5位:三鷹市7.5% (待機児童数264人)
6位:小金井市6.9% (待機児童数154人)*
7位:目黒区6.7% (待機児童数299人)
8位:中央区6.6% (待機児童数263人)*
9位:調布市6.2% (待機児童数289人)
10位:国立市5.7% (待機児童数81人)*
*マークは、待機児童数ワースト10圏外の自治体。
待機児童数ワースト1位である世田谷区を抑えて、東京で最も保育園に入りづらい地域の称号を得たのはなんと狛江市でした。待機児童率は9.6%。100人申し込むと10人近く落ちるという、激戦区です。
さらに、台東区も待機児童数ではワースト13位だったのが、待機児童率で比べると世田谷区を上回ってしまいました。
ちなみに狛江市の前年度の待機児童率はなんと13%でした。今年の9.6%も多いと思うけれど、去年はもっと多かったわけです。これでも待機児童数を前年比で33名減らしていて、頑張ってはいるようです。
一方で2位の台東区は前年度から待機児童数を70人も増やしてしまい、待機児童率も6%だったのが8%に増えてしまいました。
待機児童率のランキングワースト10には、待機児童数ワースト10に入っていない自治体(*マーク)が5つも顔を出しています。狛江市、台東区、小金井市、中央区、国立市は待機児童数は目立たなくても実は隠れ激戦区だったわけです。
渋谷区、目黒区、調布市はほとんど待機児童数のランキングと順位が変わっていません。見方を変えても激戦区であることは変わらないようです。
ちなみに前年度の待機児童率ランキングは、狛江市・小金井市・世田谷区の順でした。小金井市は待機児童激戦区というイメージがあります。それでも前年度の8%越えという高い数字から、若干下げてきました。
東京都待機児童隠れ激戦区ワースト11位〜20位
続いて待機児童率でみる、隠れ激戦区を11位から20位までをご紹介しましょう。
11位:府中市5.5% (待機児童数296人)
12位:立川市5.4% (待機児童数198人)
13位:中野区4.8% (待機児童数257人)
14位:日野市4.79% (待機児童数183人)
15位:小平市4.78% (待機児童数167人)
16位:武蔵野市4.6% (待機児童数122人)
17位:西東京市4.4% (待機児童数154人)
18位:東久留米市4.3% (待機児童数92人)
19位:国分寺市4.2% (待機児童数102人)
20位:江戸川区3.5% (待機児童数397人)
だいたい待機児童数が100人前後の自治体が多く登場しています。20位の江戸川区は待機児童数ワースト2位でした。比率でみるとそこまで酷い状況ではないようですね。
東京都待機児童隠れ激戦区ワースト21位〜25位
最後に21位から25位。26位(武蔵村山市)以降は、待機児童率が東京都平均を下回っているので、半端ですが25位で打ち切ります。
21位:北区3.4% (待機児童数232人)
22位:瑞穂町3.35% (待機児童数25人)
23位:板橋区3.35% (待機児童数376人)
24位:清瀬市3.30% (待機児童数44人)
25位:荒川区3.27% (待機児童数164人)
待機児童数ワースト3位の板橋区がここでやっと登場しました。率で比べると、待機児童数ランキングとずいぶん結果が違うのだな、と思い知らされます。
今回の分析をするまで、狛江市の保育園がそこまで激戦区になっているとは知りませんでした。待機児童数ワーストランキングはかれこれ5年以上調べているのだけど、待機児童率という切り口でランキングをつくったのは初めてです。
気になって狛江市の過去の遷移を調べてみたものの、8%→4%→8%→13%→10%(今年)と、増えたり減ったり、いまいちパターンがつかめませんでした。
この記事の情報は、東京都福祉保健局が毎年公開する東京都の市区町村別の保育サービス利用者数・待機児童のデータを利用しています。
再度申し上げている通り、「待機児童」という言葉の定義は、育休延長した人を含めなかったり、希望に沿った園に入園できずに辞退した人などを含めなかったりします。
こういう人は「隠れ待機児童」として別途集計されていたりされていなかったりするため、待機児童という数字は案外不正確です。記事を書いておきながら言うコメントではないけれど、「待機児童がゼロ(または少ない)」という情報はあまり鵜呑みにしないでください。